福山平成大学 小川教授の 「経営の福袋」第68回 文系の知恵、理系の知恵

 セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長の訃報を機に、3回に亘ってセブン‐イレブンについてお話ししてきました。今回もう一つ、コンビニのイノベーションについて補足させていただこうと思います。現在、セブン‐イレブンの店舗は全都道府県にあり、非常に身近な存在となっているのですが、既にお話ししたように第1号店が東京の豊洲に開設されたのは1974年のことでした。それから順次、他の道府県へも店舗開設が進められたのですが、その中で最も遅く店舗が開設されたのが鳥取県で、それは2015年のことでした。この間、40年以上の年月が経過しているのはとても不思議です。
 実は、この背景にもセブン‐イレブンの緻密な戦略がありました。セブン‐イレブンは出店時、「ドミナント戦略」を採用しています。ドミナント戦略とは特定のエリアに集中的に店舗を開設することにより、その地域で支配的なシェアを狙う戦略のことです。つまり、あちこちバラバラに店舗を開設するのではなく、優先順位に基づいてターゲットとなる地域を選び出し、順次それらの地域で集中的に複数の店舗を展開する戦略です。一般に、コンビニ1店舗の商圏は半径500メートルだと言われています。ですから、例えば約1キロメートル間隔で店舗を地域に集中的に展開すれば、そのエリアへの競合他社の参入が難しくなるという訳です。セブン‐イレブンは、この戦略に従って出店を行ってきたため、結果的に全国展開までに40年以上の時間が掛かったということなのでしょう。
 驚くべきことに、ドミナント戦略にはもう一つの重要な意味があります。それは前回触れた、「共同配送」と「多頻度小口配送」に関連しています。と言うのは、ドミナント戦略に従い、ある地域への集中的な出店計画を策定する際、それらの店舗への配送計画を同時に構想するのです。この戦略によって開設された店舗は、当然ながら相互に近在することになるので、これらの店舗を一つのエリア群として考えた上で、最も効率的な配送ルートを構築することにより、「多頻度小口配送」のコストの低減とともに、効果の向上が期待できる訳です。さらに計画的に、こうしたエリア群が複数、近隣の地域に形成されると、今度はそれらのエリア群をカバーする位置に「共同配送センター」を設けることによって、それを中心に、より広範なエリアの配送効率が向上するということです。
 いかがでしょう。セブン‐イレブンのイノベーションは重層的で、非常にダイナミックです。複数のイノベーションが有機的に繋がり合って、さらに新しい価値を生み出しています。確かに、基幹となったPOSを始めとする情報システムの開発は大きな技術的イノベーションであり、それには専門的で高度なテクノロジーの知識や技能が欠かせません。しかし、コンビニの日本への導入における数々の工夫、共同配送や多頻度小口配送、ドミナント戦略などは、視点を変えたり、あれとこれを結び付けたり、あるものを分けて考えることで生まれたイノベーションです。
 ボクは、前者を「理系の知恵」、後者を「文系の知恵」と名付け、本学の学生諸君には、是非この文系の知恵を会得してもらいたいと思っているのです。