福山平成大学 小川教授の「経営の福袋」第45回 カタカナ文字の言葉(上)

 ダイバーシティ(diversity)、レジリエンス(resilience)、ウェル・ビーイング(well-being)など、最近、経営に関するカタカナ文字の言葉をよく見掛けます。実は、カタカナ文字の言葉を使う傾向は以前からあったのですが、それは一つには経営学が外来の学問であるという理由が大いにあると思います。つまり、今も昔も日本の経営学研究者たちの多くが、アメリカの学界で話題になっている新しいトピックを一早く日本に持ち込むことが、経営学の最前線を走っている研究者だと、自他ともに認める傾向が強いからではないかと思います。

 また一方で、グローバル化が進展したことによって、受け取る側のわれわれの方にも、こうしたカタカナ文字に対する抵抗感が薄れてきていることも、その理由ではないかと考えられます。特にIT関連の用語などは、そもそも英語においても新語や、既存の言葉がこれまでになかった意味で使われる例が多いため、和訳される時に英語読みそのままにカタカナ文字の言葉で使われる傾向が強く、そのことが一層カタカナ文字に対する抵抗感の希薄化に拍車を掛けているように思います。

 しかし、言葉というものは元来、それが使われている国や地域の人々の歴史や文化、考え方などを反映しているものなので、なかなか原語の持つ本当の意味を文化の異なる他国における訳語から掴み取ることは難しいものです。例えば、ダイバーシティは日本語で多様性と訳されていますが、日本企業におけるダイバーシティの取組みは、障害者雇用や女性管理職登用などの狭い意味にしか解釈されておらず、不十分だという批判をよく耳にします。確かに、そうした点は否めない面もあるのですが、一つには取って付けたような外来の概念を適用しようとする訳ですから、それが最初からピッタリ当てはまることはなかなか難しいとも言えそうです。

 そして、より重要なことは、米語としてのダイバーシティの概念には、「人種のサラダボウル」とも言われる多民族国家であるアメリカにおいて、多様な文化や考え方を持つ人たちが共に存在するという歴史的な意味合いが根底にありますので、ダイバーシティという言葉は、こうした広い意味での多様性とその共存を包含している訳です。ですから比較的、国民の同質性が高い日本においては、その意味の深みがなかなか理解しにくく、適用し辛いという事情があるものと言えます。

 一方、レジリエンスという言葉には、日本語の「たおやかさ」という言葉が、よく当てはまるのではないかとボクは思っています。古語である「たをやか」を岩波の古語辞典で引くと、「①重みでしなっているさま。たわんでいるさま。②(身のこなしが)いかにもものやわらかで優美なさま。③人の性質に加えられる力に耐える柔軟性があるさま」とされています。たおやかの「たお」は撓む(たわむ)から来ており、この言葉は逆にレジリエンスという英語の心理学用語などより、深みのある美しい言葉だとボクは思いますし、われわれ日本人には、自然にその意味が伝わる言葉ではないかと思うのです。