光陰矢の如し。本コラムの連載が始まったのが昨年の9月1日号でしたので、早や一年が過ぎたことになります。この一年、皆さま色々なことがあったと思いますが、それぞれに喜怒哀楽が伴っていたことでしょう。中には、喜や楽のほうが多かったという方がおいでになる一方で、いやいや怒や哀のほうが多かったという方もいらっしゃるものと思います。
前者の方は、それに慢ずることなく、有難いことだという感謝の心で、その喜びや楽しみを周りの人たちと分かち合っていけば、今後もそうした生活が続くものと思います。また、後者の方は、証券界の格言のように「谷深ければ、山高し」、怒りや哀しみが深かった分だけ学びがあり、それが人生の糧になると思えば「先憂後楽」となるはずです。将棋の羽生善治永世七冠も「追い詰められた場所にこそ、大きな飛躍がある」と話しています。
こういう話をすると、それよりも、どうすればよいか具体的なノウハウを教えて欲しいと多くの方がおっしゃいます。実は、こうして世の多くの人が、あまりにも目先のことばかりに囚われてしまい、大切なことが忘れられているのではないかと思うからこそ、それを福袋にして、皆さまにお配りしている次第なのです。さて、皆さま覚えておられますでしょうか? 本コラムの第1回は、経営の神様、松下幸之助翁の話でした。そこで、一周年の今回は幸之助翁と京セラ創業者の稲盛和夫氏に関する、取って置きのエピソードをご紹介したいと思います。
幸之助翁は、松下電器を経営する中で「ダム式経営」という考え方を唱えるようになります。それは、ダムのように日頃からコツコツと一定の資金を貯めておき、いつも一定の水量が流れるような余裕のある経営を行わなければならない。なぜなら、事業経営においては、いつ好機が訪れるか分からないので、その時に思い切って投資できるようにしておくためであり、逆に、いつ不測の事態が生起するか分からないので、その時に備えておくためだというのです。
ある日、中小企業経営者たちへの講演で、幸之助翁はダム式経営の大切さを話します。すると、聴いていた人たちは「そんなこと分かってる。余裕がないから困っとるんや。そんなもん聞いても何の役にも立たん」と呟き合い、「どうすれば余裕ができるのか教えて欲しい」と質問します。それに対し幸之助翁は、「そんな方法知りませんけど、まあ余裕がないといかんと思わないけまへんな」と笑いながら答え、参加者も失笑したそうです。しかし、その聴衆の中に「なるほど。まず、そうしようと思うことが大切なのだ」と開眼した人がいたのです。それが、若き稲盛和夫氏でした。
これまでご紹介してきたように、稲盛氏は京セラ、KDDI、日本航空の経営に当たり大きな功績を残した偉大な経営者です。そして、すべての事業の基には「潜在意識まで透徹する強い持続した願望」がありました。さて皆さまは、この「思いの力」をどうお考えになりますでしょうか。