前回に引き続き日本経済新聞の記事の話題になりますが、考えさせられる内容でしたので取り上げてみます。記事のタイトルは「快走 ナデラ流高速経営」で、ナデラとは設立50周年を迎えた米MS(マイクロソフト)社のCEO(最高経営責任者)サティア・ナデラ氏のことです。インド出身の彼は、米ウィスコンシン大学でコンピューターサイエンスを学んだ技術者で、2014年にMS社の3代目CEOに就いています。就任後、彼はAI(人工知能)を軸にMS社に過去最高利益をもたらしたのですが、その背景には次のような3つの戦略があったと言われています。
まず、これまでのウィンドウズ製品等の成功体験から脱却し、スピード経営実現のためにスタートアップ企業からの技術導入も厭わず取り入れる「脱自前主義」戦略。次に、事業部を廃して横串の組織に再編し、各部門が開発した技術等の機能を柔軟に顧客に提供するため、クラウドサービスの利用を最優先に運用基盤として考えるクラウドファーストのもと、AIを横展開する「縦割り廃止」戦略です。そして、最も興味深かったのが「直轄部隊で徹底討論」という3つ目の戦略でした。
MS本社では、毎週金曜日がCEO直轄チームのメンバー16人による会議漬けの日と定められ、その日は朝9時から午後4時ぐらいまで引っ切り無しに会議が行われます。さらに、「オープンスペース」というテーマを決めない自由な議論の場もあり、多忙を極める最高幹部たちが議題なしに定期的に自由討論しているということです。その背景には、ナデラ氏が重視する「ラーン・イット・オール」(学び続ける)という考え方があり、メンバーは「ノウ・イット・オール」(何でも知っている)という万能さではなく、新しい知識を吸収し続け、成長への種を探り続けることが求められていると言います。また、彼自身は強烈な好奇心の持ち主で、「成果で褒めたり叱ったりというレベルではなく、どうしてうまくいったのかうまくいかなかったのか徹底的に探ろう」とする人だとされています。
今回の記事の眼目は、MS社の快進撃が上記の3つの戦略によってもたらされたという経営的な知見の紹介だと思いますが、それとは別にボクが考えさせられたのは、多くの人々に大規模な「ノウ・イット・オール」を簡便に提供するAIサービスを先頭に立って展開しているMS社において、主要メンバーたちが頻繁に顔と顔を突き合わせ、「ラーン・イット・オール」という考え方のもと知恵を出し合っているという事実です。
つまり、申し上げたいことは、一方で生成AIサービスを生み出す人たちが頻繁に面と向かい合って議論し、相互の学び合いから新しいアイデアを創造しているのに対して、他方で、それを利用する多くの人たちが、自ら求める答えを生身の人間ではなく、極度にAIに依存するようになりつつある傾向を、皆さまはどうお考えになるのだろうかということです。