前回に引き続き、今回も京セラの創業者、稲盛和夫さんに関するお話しをさせていただきたいと思います。生前、稲盛さんが数多くの書籍を残されていることは皆様よくご存じで、お読みになられた方も多いのではないでしょうか。また経営者として超多忙の中、稲盛さんは全国の経営者の方々から請われて時間を割き、各地で数えきれないほどの講演を行っています。ボクも実際に直接、講演会で稲盛さんの謦咳に接したことがありますし、著書を読み、繰り返し講演時の肉声が録音されたCDを聴いてきました。それらの中において、稲盛さんは(ご自身でも言っておられるのですが)、経営や製造のノウハウなどの話題にはほとんど触れることはなく、経営者としてのあり方や心構え、経営哲学、人間哲学などを、経営者を始め後進の人たちのために熱く語っています。
それらの話題やテーマの内容は様々なのですが、その中で一貫して説かれているのが「利他の心」です。著書や講演の中で常々、「私が利他の話をすると、熾烈な市場競争により勝敗が決まっていく資本主義社会で、経営者が利他の心を持って仕事をしなければならないなどと甘いことを言っていては、経営などできるはずがないではないかという人もいるようですが…」と前置きしながらも、そうした批判や中傷に一切揺らぐことなく、稲盛さんは利他の心の大切さを貫き通しています。
稲盛さんの説く利他の心とは、他者への優しい思いやりの心であり、「世のため人のため」という心、つまり周囲や相手に善かれかしと思う心のことです。また、「利他の経営」とは、自分のことだけを考えるのではなく、自分が利益を得たいと思うのであれば、同じように利益を得たいと思っている相手や周囲の人たちの心も慮り、自分と同じように喜んでもらえるように考えて経営していくことだと言われています。
考えてみれば、事業とは本質的に利他の心で成り立っていると言えるのではないでしょうか。なぜなら、すべての事業は必ず、誰かが必要とし誰かのために役立つもの、すなわち人を幸福にする製品やサービスを提供することで成り立っているからです。だからこそ、顧客はそれに対して対価を支払っているはずです。言わば、経済というのは、こうした相互の利他の心の交換、循環で成り立っていると言うこともできるのではないでしょうか。万一、あなたの事業が利他に貢献するものでないにもかかわらず、自らのためだけに利益を得ているとするならば、それは詐欺に他なりません。
事業は徳業なり。すなわち、事業が利他の実現に資するからこそ企業は存在し、それが世に必要とされるからこそ継続することができるのではないでしょうか。