福山平成大学 小川教授の「経営の福袋」第10回 人間として正しいこと

光陰矢の如し。月日の流れは早いもので、今年も早や師走を迎えようとしています。本コラムも、あっという間に今回で10回目となりましたが、ここまで少しでも皆様のお役に立つことができましたでしょうか。中には、これまでのボクのコラムを少し教訓めいた内容だと感じておられる読者もおいでになるかもしれませんが、それには理由があります。それは、事業活動の根本は人間の活動に他ならないとボクが考えているからです。言わば、人間なくして事業なしということです。

 わが国の名経営者の一人、京セラ創業者の故稲盛和夫さんは京セラという会社を、小さな町工場から世界の京セラへと育て上げたばかりではなく、第二電電(現KDDI)を設立して、親方日の丸の典型的な大企業NTT(旧、日本電信電話公社)が独占していた通信事業に果敢に挑み、その牙城を切り崩して通信料金の低価格化をもたらしました。また、杜撰な経営体質によって企業存亡の危機に陥り、誰も引き受け手のなかったJAL(日本航空)を救うため、乞われてその陣頭指揮に当たり、奇跡の再生を果たしたことを覚えておられる方も多いのではないでしょうか。

 これらの稲盛さんの行動の背景には、いつも「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」という京セラ創立以来の経営理念があり、それに共感する人たちと共に、こうしたいくつもの偉業が成し遂げられてきたのです。また、京セラグループでは、稲盛さんが唱えた「京セラフィロソフィ」という哲学が今も指針となっています。それは、世間一般の道徳に反しないよう道理に照らした、常に「人間として正しいことは何なのか」という判断の基準のことであり、人間が本来持つ良心にもとづいた最も基本的な倫理観や道徳観のことです。簡単に言えば、「欲張るな」、「騙してはいけない」、「嘘を言うな」、「正直であれ」など誰もが子どもの頃に両親や先生から教えられ、よく知っている、人間として当然守るべき単純で、プリミティブな(素朴な)教えだとされています。

 いかがでしょう。今、こうした当たり前のことを子供たちに教えている親や教師がどれほどいるのでしょうか。それどころか、自らがこうした当たり前のことを当たり前に行動していると胸を張って言える人がどれほどいるのでしょう。いわんや、こうした当たり前のフィロソフィを持って経営に臨んでいる経営者がどれほどいるのでしょうか。そうしたことを棚に上げておいて、社会が悪いとか景気が悪いとか政治が悪いなどと騒ぎ立てても、世の中は決してよくならないのではないのかとボクは考えているわけなのです。