昨今、どこの大学でもオープン・キャンパスが盛んに行われています。先月、本学でも開催され、「経営学は、君の人生を豊かにする学問だ!」と題して、ボクが模擬授業を担当しました。そこで、経営学とはどのような学問なのかということに関して、常日頃、考えている以下のような内容を、かみ砕いて高校生や保護者の方々にお話ししました。
いざとなると、「経営学」の定義はなかなか難しいものですが、わが国経営学界の重鎮の一人、加護野忠雄先生が入門書に書かれていた「良いことを上手に実現するための学問」という定義を、ボクは堅持しています。その要点は、「良いこと」と「上手に」ということなのですが、100年以上の歴史を持つ経営学において、これまで「上手に」という面ばかりが取り扱われ、「良いこと」が疎かになっていたと加護野氏は言います。さらに、「企業経営の現実がどうあるかについての研究に比べて、企業・経営者がいかにあるべきかの規範が論ぜられることはわずかでしかなかった」とも記しています。まさにボクも、その通りだと思います。
また、実際の企業経営においても大いにこうした傾向があり、最近それがますます強まっているような気がしてなりません。経営に関して、「上手に」という言葉から誰しも念頭に浮かぶのは、「より効率的に」ということではないかと思います。これまで、多くの企業は、より効率的に、より合理的にと知恵を絞り、ひたむきな努力を重ねて大きな成果を上げてきました。また、そのお陰でわれわれの生活が豊かになったのは紛れもない事実です。しかし、「上手に」ということはあくまでもテクニカルな側面であり、経営の究極的な目的は「良いこと」の実現にあります。
企業が提供するどのような製品やサービスも、それが「良いこと」、すなわち世の中に価値をもたらすこと、換言すれば人を幸せにすることでなければならないはずです。また、「良いこと」を実現している企業で働く従業員は、自らの仕事に誇りを持つことのできる幸せな人たちであるに違いありません。もし、そうでない製品やサービスを言葉巧みに売っているのであれば、それは詐欺に他ならず、そこで働く従業員は不幸な人たちなのではないでしょうか。
偉大な経営学者、P. F.ドラッカーは言っています。「経営とは人に関わることであり、善悪に関わることである」。経営者は「良いこと」とは何かということを、常に問い続けなければならないのです。